酒米品種ガイド 山田錦から地方品種まで、性格で引く図鑑
裏ラベルに書かれた酒米の名前から、味の見当はつけられます。山田錦なら芳醇、五百万石なら淡麗。品種にはそれぞれ性格があるからです。
ただし味は造りでも動きます。ここでは主要な酒米を性格ごとに並べ、選びの手がかりになる図鑑にまとめました。原料が味を変える仕組みは中級者のための講義にまとめています。純米や吟醸の呼び名は純米・吟醸・大吟醸の違いへ。この記事は品種そのものに絞ります。
酒米とは 3つの条件で覚える
酒造りに向く米を酒造好適米、略して酒米と呼びます。ふだん食べるお米とは、選ぶ基準が違います。
良い酒米の条件は3つ。粒が大きいこと、中心に心白があること、タンパク質が少ないことです。心白とは米の中心にある白く見える部分をいいます。デンプンの詰まり方が粗く、細かい隙間があるため、麹菌の菌糸が米の内部まで届きやすくなります。
粒が大きいのは、表層を削っても割れずに残す余地が要るからです。麹菌が届きやすい心白は、糖化を進める土台になります。タンパク質が少ないと、雑味のもとになるアミノ酸が増えにくくなります。この3条件をどんな形で備えるかが、品種ごとに違います。そこが味の出発点。仕組みを深掘りしたい人は中級者のための講義へどうぞ。
王道の3品種 山田錦・五百万石・美山錦
生産量の上位を占めるのが、山田錦・五百万石・美山錦です。まずこの3つを押さえると、全体像がつかめます。
山田錦 高く磨いても割れない王道
山田錦は兵庫県で生まれた品種です。1923年に山田穂と短稈渡船をかけ合わせ、1936年に命名されました。千粒重は27〜28gと、酒米のなかでも大粒です。心白も大きく、高く磨いても割れにくい性質を持ちます。
だから精米歩合を小さくする大吟醸に向きます。精米歩合とは、米をどれだけ残したかの割合のこと。数字が小さいほど多く磨いた米です。仕上がりは芳醇で、ふくらみのある味になりやすい傾向。山口の旭酒造「獺祭」の「磨き二割三分」は、山田錦を精米歩合23%まで磨いた一例です。ここまで削っても砕けないのは、大粒で心白の詰まった山田錦だからこそでしょう。
五百万石 溶けにくさが生む淡麗辛口
五百万石は新潟県で1938年に、菊水(母)と新200号(父)を交配して育成された品種です。奨励品種としての登録は1957年でした。心白は大きく麹は造りやすい一方、米質はやや硬めで溶けにくい傾向があります。
もろみで溶けすぎないぶん、すっきりとキレのある淡麗な酒になりやすいとされます。新潟の淡麗辛口を支えた品種でもありました。新潟の朝日酒造「久保田」のように、この五百万石を主に使う蔵もあります。
美山錦 寒さに強い北の淡麗
美山錦は長野県で生まれました。たかね錦という米に放射線を当て、その突然変異から選び出された品種です。耐冷性が高く、東北や北陸など寒い地方でも育ちます。
心白の発現率が高く、吟醸造りにも使われてきました。仕上がりはすっきりとした淡麗な味わい。華やかな吟醸香をまとうものも多く見られます。
祖と、その血を継ぐ子 雄町・愛山
王道の3品種が味の中心なら、次の2つは味の幅を広げる存在です。片方は多くの酒米の祖、もう片方はその血を受け継ぐ子にあたります。
雄町 多くの酒米の祖
雄町は岡山県で見つかった古い品種です。1859年、農家の岸本甚造が伯耆大山への参拝の帰りに2本の穂を見つけ、持ち帰って育てたのが始まりと伝わります。交配を経ていない原生種で、山田錦(父方の短稈渡船を通じて)をはじめ、いまの酒米の多くに雄町の血が流れています。
もろみに溶けやすく、旨味の乗った濃醇な酒になりやすい性格。栽培に手間がかかり、作付けが大きく減った時期もありました。岡山県赤磐市の利守酒造は、銘柄「酒一筋」とともに、地元でこの雄町の栽培を復活させた蔵として知られます。
愛山 雄町と山田錦を受け継ぐ濃醇
愛山は兵庫県で1941年に生まれました。愛船117と山雄67をかけ合わせた品種です。父方の山雄67は、山田錦と雄町の子。だから愛山は、雄町の血を色濃く受け継いでいます。
千粒重は約30gと、山田錦をしのぐこともある大粒。溶けやすさを生かした、甘みと果実味に富む濃醇な酒が生まれます。栽培が難しく、作り手は限られます。兵庫・灘の剣菱酒造は、山田錦とともに兵庫県産の愛山を使う蔵の一つです。
地方が育てた注目品種 出羽燦々・秋田酒こまち・越淡麗
酒米は王道品種だけではありません。各県が土地の気候に合う独自品種を育て、地元ならではの味を打ち出す動きが広がってきました。代表例を3つ挙げます。
出羽燦々 山形の原料でそろえる一本
出羽燦々は山形県が育てた酒米です。美山錦と華吹雪をかけ合わせ、県内だけで栽培されています。山形は麹菌や酵母も県独自のものをそろえ、原料を土地でまとめてきました。天童市の出羽桜酒造「出羽燦々誕生記念」は、この米を100%使い、精米歩合50%で醸した一例です。
秋田酒こまち 大粒でやわらかい東北の米
秋田酒こまちは秋田県が育てた品種です。大粒でやわらかく、高く磨けるのが特徴。香り高く、上品な甘みと軽やかな後味を持つ酒になりやすいとされます。タンパク質の少なさが、その品のよさにつながっています。
越淡麗 大吟醸に耐える新潟の米
越淡麗は、新潟県が山田錦と五百万石をかけ合わせて育てた品種です。五百万石では届きにくい高精白にも耐え、大吟醸の醸造に使えます。淡麗な新潟酒に厚みを足したいときの選択肢になりました。
好みから引く 性格別の早見
図鑑は品種から引くだけでなく、味の好みからも引けます。「今日は濃いのを」というときの目安です。
- 芳醇でふくらみのある味なら、山田錦・雄町・愛山。
- 淡麗ですっきりなら、五百万石・美山錦・越淡麗。
- 濃醇でコク・果実味なら、雄町・愛山。
- 香り高く上品なら、出羽燦々・秋田酒こまち。
ここで二、三品種に絞ってから、次の一覧表で細部を見比べると迷いません。
品種一覧 早見表
ここまでの品種を一覧にします。表にある「溶けやすさ」は、もろみの中で米がどれだけほどけるかを指します。よく溶ける米は旨味やコクが出て濃醇に、溶けにくい米はキレのある淡麗に向かいます。心白・溶けやすさ・味はあくまで目安で、同じ品種でも造りで表情は変わります。
| 品種 | 主な産地 | 心白 | 溶けやすさ | 味の傾向 |
|---|---|---|---|---|
| 山田錦 | 兵庫県ほか | 大きい | 中庸 | 芳醇でふくらみのある味 |
| 五百万石 | 新潟・北陸 | 大きい | 溶けにくい | 淡麗辛口・キレ |
| 美山錦 | 長野・東北 | 発現率が高い | やや溶けにくい | 淡麗で柔らかな口当たり |
| 雄町 | 岡山県 | 発現良好 | 溶けやすい | 濃醇でコクのある味 |
| 愛山 | 兵庫県 | 大きい | 溶けやすい | 濃醇で果実味に富む |
| 出羽燦々 | 山形県 | 発現率が高い | 中程度 | すっきり吟醸向き |
| 秋田酒こまち | 秋田県 | 大きい | やや溶けやすい | 香り高く上品な甘み |
| 越淡麗 | 新潟県 | 大きい | 高精白向き | 淡麗に厚みを足す |
味の欄は傾向であって、断定ではありません。水・酵母・酒母・火入れが加わって、はじめて一本の味が決まります。
品種で選ぶ楽しみ
品種がわかると、選ぶ楽しみが一段増えます。同じ精米歩合の純米吟醸でも、山田錦と美山錦では余韻の長さが変わります。好みで絞るなら前節の「性格別の早見」が近道です。産地から選ぶ手もあります。兵庫の山田錦、新潟の五百万石というように、土地と品種は結びついてきました。裏ラベルの酒米欄が、その入口になります。
とはいえ、味は品種だけで決まるわけではありません。同じ雄町でも、溶かし方や温度で濃さは動きます。原料が味をどう変えるかは中級者のための講義、純米や吟醸の呼び名の整理は純米・吟醸・大吟醸の違いで扱っています。
酒米の名前は、味の見当をつける手がかり。答え合わせは、実際に注いだ一杯で確かめてください。
※この記事は20歳以上の方を対象としています。飲酒は適量を守り、妊娠中・授乳期の方や運転前の飲酒は避けてください。