増田徳兵衛商店は延宝3年（1675年）創業で、初代増田徳兵衛が米屋と酒造業を兼業し、増田徳兵衛と米屋弥兵衛の2つの屋号で営業を開始しました。
「月の桂」の銘柄名は、公家の姉小路有長が詠んだ「かげ清き月の嘉都良の川水を夜々汲みて世々に栄えむ」（月影清らかな桂川の水を夜ごと汲んで代々栄えん）という歌に由来します。谷崎潤一郎、永井荷風、小津安二郎など多くの文人墨客に愛され、「文人の酒」と呼ばれています。
1964年に13代目当主が日本初の「活性にごり酒」を発明し、坂口謹一郎博士（醸造学の最高権威）により元祖にごり酒として認定されました。これは殺菌処理をせずに瓶詰めし、瓶内で発酵が続く生の活性にごり酒で、「お米のスパークリング」とも呼ばれます。当初は開栓時の激しい発泡により「半分は床が飲んだ」という苦情もありました。
一般的なにごり酒とは異なり、月の桂のにごり酒はドライな味わいを追求し、極細かい泡が驚くほどシャープでシルキーな喉ごしを生み出します。35年以上前から地元伏見の農家と協力し、祝や旭などの京都産有機栽培酒米の栽培を行っています。ルイ・ヴィトンなど高級ブランドからのコラボレーション依頼も受けています。
1965年には純米大吟醸を陶器の壺で長期熟成させる取り組みを開始し、にごり酒と熟成酒の両カテゴリーでパイオニアとして確立しました。陶器瓶での熟成酒は60年に達するものもあり、世界的な注目を集めています。最も寒い冬季のみ醸造を行い、手造りにこだわり、日本酒の季節性と個性を重視しながら、日本社会における酒の文化的意義を保持し続けています。