ポンシュ

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伝統的酒造りと日本文化 神事・四季・贈答・日本酒の日

文化・歴史#中級者#culture#history#seasonal

日本酒は飲み物であると同時に、日本人の暮らしに寄り添ってきた存在です。神への供え物として、正月や祝いの席の酒として、四季の便りとして、贈り物として。さらに、酒どころが生まれた背景、ユネスコにも評価された造りの技、そして「日本酒の日」まで。場面が変われば、呼び名も作法も変わります。この記事は、その結びつきを一つずつたどる文化の見取り図。

地域でわかる日本酒入門酒蔵見学の準備とマナーギフトの選び方を、文化の側から補う母艦でもあります。

神へ供える酒 神饌と御神酒

日本酒は古くから神事の中心にありました。稲作を営む日本では、米は神からの恵みとされ、その米からつくる酒は神への最高の供え物と考えられてきました。神へのお供え物を「神饌(しんせん)」と呼び、酒・飯・餅などが供えられます。米の酒が、その筆頭に置かれてきたわけです。

建物を建てる前の地鎮祭を思い浮かべてください。土地を清めるために酒を供え、地面にまき、参列者に振る舞います。日本酒造組合中央会は、この酒が邪気を払い、長寿を祈って飲まれてきたと説明します。祈りの後に人が口にする流れには、神と人をつなぐ役割が込められています。

神前に供えた酒は「御神酒(おみき)」と呼ばれます。供えるときの読みや作法は神社や地域で差があり、ここでは一つに断定しません。神社でお参りしたあとや祭りで、小さな盃に注いで振る舞われることもあります。旅先で盃を渡されたら、それが御神酒です。正月や祭礼で酒を祝いとして持参する習わし、火事や災害の見舞いに酒を届ける習わしも、同じ根から伸びています。

正月の祝い酒 お屠蘇(おとそ)

正月には「お屠蘇(おとそ)」を飲む習慣があります。お屠蘇は、十種ほどの薬草を清酒やみりんに浸した薬草酒です。一年の無事を祈って年の初めに口にします。

名の由来は古代中国にさかのぼります。「屠」は邪気を屠(ほふ)る、「蘇」は魂を蘇らせるの意とされます。邪気を払い、生気を取り戻す願いが一語に込められています。

飲む順にも意味があります。政府広報の解説によると、東を向き、年少者から年長者へと順に杯を回すのが作法です。若い者の生気を年長者が受け取る、という考え方が背景にあります。厄年の人は最後に回し、皆の力を分けてもらう地域もあります。

祝いの席を結ぶ酒 三三九度と鏡開き

祝い事でも、酒は人と人を結ぶ役目を担ってきました。代表が結婚式の「三三九度(さんさんくど)」です。三献(さんこん)の儀とも呼ばれます。大中小の三つ組の盃を使い、新郎が三度、新婦が三度、最後に新郎が三度、あわせて九度酌み交わします。同じ酒を分けて飲む所作に、両家が縁を固める意味が重ねられました。

宴席でよく見るのが「鏡開き」です。菰樽(こもだる)の丸い木蓋を、古くは「鏡」と呼びました。銅鏡に形が似ているためです。鏡には神が宿ると考えられ、その蓋を割って開くことに「運を開く」意味が重ねられました。「割る」を避けて「開く」と言い換える点も、縁起を担ぐ日本語らしさが出ています。

菰樽が祝いの場に置かれるようになったのは江戸期とされます。当時、上方から江戸へ船で運ばれた上等な酒は「下り酒(くだりざけ)」と呼ばれ、樽ごと運ばれました。その姿が、繁栄を願う祝儀の道具として定着していきます。

四季で表情を変える酒

日本酒は季節ごとに違う顔を見せます。造りと出荷の時期が、酒質と呼び名を分けるためです。おもな季節の酒を整理します。

呼び名 おもな時期 特徴(※秋あがりのみ、酒の種類でなく「状態」を指す言葉)
しぼりたて・新酒 搾ってすぐ出す。火入れ(加熱処理)をしない生酒が多く、香りが若い
夏酒 冷やして飲む想定で造る。生酒や低めのアルコールで、口当たりが軽いものが多い
ひやおろし 冬に造り春に一度だけ火入れし、夏を越して出す。二度目の火入れをしない生詰め酒
秋あがり 夏を越して味がのった「状態」を指す言葉。飲み手側の目線から生まれた

いくつか用語を補います。「火入れ」とは、貯蔵や出荷の前に酒を加熱して品質を保つ工程です。ふつうは貯蔵前と出荷前の二回おこないます。二回通した酒は香味が落ち着き、口当たりがなめらかになります。

「ひやおろし」は、二度目の火入れをあえて省いた酒です。かつては蔵の中で夏を越させ、外気と蔵内の温度が近づく秋口に、冷や(再加熱なし)のまま樽から卸して出荷しました。この「冷やで卸す」がそのまま名になりました。同じひやおろしでも、九月と十一月では熟れ方が変わり、味わいも動きます。

「秋あがり」は酒の種類ではなく、状態を指します。夏を越して旨味が増した状態を、飲み手がこう呼びます。売り手が使う「ひやおろし」と、飲み手が使う「秋あがり」。視点の違いが、二つの言葉を分けています。秋の味覚と合わせる楽しみが、季節の便りとして根づいてきました。

贈り物としての日本酒

日本酒は、感謝や敬意を形にする贈り物としても選ばれてきました。夏の御中元、冬の御歳暮では、掛け紙(のし紙)の表書きと水引で気持ちを表します。まず水引の結び方で場面が分かれます。

何度あってもよい祝い事には、ほどいて結び直せる「蝶結び(花結び)」を使います。御中元や御歳暮、長寿の祝いがこれにあたります。一方、二度と繰り返したくない場面には、固く結んでほどけない「結び切り」を使います。結婚、弔事、病気や災害の見舞いがこれです。日本酒を見舞いに贈るときは結び方を取り違えないよう気をつけます。

表書きも場面で変わります。取り違えは失礼になりかねないため、基本を押さえておくと安心です。

場面 おもな表書き 補足
季節の挨拶 御中元/御歳暮 紅白の蝶結び。繰り返してよい贈り物
神前への奉納 奉献/奉納/御神前 神社に酒を納めるとき。「奉献酒」とも書く
弔事(仏式・忌明け後) 御仏前 四十九日の忌明け以降に用いる
弔事(仏式・忌明け前) 御霊前 宗派により扱いが異なる。浄土真宗では忌明け前でも御仏前

四十九日(忌明け)を境に、故人がまだ霊の状態とみる「御霊前」から、仏になったとみる「御仏前」へ切り替わる、という考え方が背景にあります(宗派で扱いは異なります)。弔事の宗派差は間違えやすい点です。迷うときは贈り先の宗派を確かめると失敗を避けられます。神式の弔事では表書きや水引の色が仏式と異なるため、別途確認をおすすめします。銘柄選びや価格帯の考え方はギフトの選び方にまとめています。

酒どころが生まれた条件 水・米・道

各地に酒どころがあるのは、水と米、そして運ぶ道の条件がそろったからです。良い水源と米どころが近く、消費地へ運べる土地に、蔵が集まりました。三つがそろって初めて、産地として名が立ちます。

先に触れた「下り酒」も、その一例です。上方の酒が江戸で高く評価され、船で大量に運ばれ、産地の名が広まりました。「下り酒」に対し、江戸周辺でつくられ江戸で消費された酒は「下らない酒」と呼ばれたと伝わります(「下らない=つまらない」の語源に結びつける説は俗説とされます)。

その上方の代表的な酒どころが、灘(現在の兵庫県神戸市周辺)と伏見(京都市伏見区)です。灘には白鶴酒造や菊正宗酒造が、伏見には月桂冠が、今も本拠を置いています。産地にはほかにも多くの蔵があり、ここに挙げたのはあくまで例です。灘の白鶴酒造は白鶴酒造資料館を、伏見の月桂冠は月桂冠大倉記念館を、かつての酒蔵を活かした施設として公開しています。造りの現場や酒文化にじかに触れたい方は酒蔵見学の準備とマナーとあわせてどうぞ。

地域と酒質の関係は地域でわかる日本酒入門で県別に見ていけます。

「伝統的酒造り」という技

日本酒づくりの技そのものが、文化として評価されています。国税庁と文化庁は「伝統的酒造り」を、杜氏(とうじ)や蔵人(くらびと)がこうじ菌を用い、長い経験に基づいて築いてきた技術と説明します。手作業が中心で、機械では置き換えにくい判断の積み重ねが核にあります。

「こうじ菌」は、米などのでんぷんを糖に変える微生物です。この糖を酵母がアルコールに変え、酒になります。職人はこうじ菌が育つ温度と湿度を見極め、工程を通して手を入れ続けます。この技は各地の気候風土に合わせて枝分かれし、日本酒だけでなく焼酎や泡盛、本みりんの造りにも受け継がれてきました。

ユネスコ無形文化遺産としての評価も、この技術体系に向けられています。登録をめぐる事実は追加や更新がありうるため、ここでは年次に触れず、技の中身の説明にとどめます。造りの現場を見たい方は酒蔵見学の準備とマナーをどうぞ。

10月1日は「日本酒の日」

10月1日は「日本酒の日」です。日本酒造組合中央会が定めた記念日で、由来は二つ語られます。

一つは酒造年度です。かつて酒づくりは10月に始まり、翌年9月までを一区切りとしました。酒造年度も10月1日からの一年で、蔵はこの日を「酒造元旦」として祝ってきました。もう一つは十二支です。10月は「酉(とり)」の月にあたります。酉の字は、もともと酒を入れる壺をかたどった象形文字とされます。新米が実り、蔵が造りを始める季節が、そのまま酒の記念日になりました。

神饌の御酒から祝いの盃、季節の一杯、贈答の一本まで。日本酒は場面ごとに呼び名を変え、作法をまといながら使われてきました。次に鏡開きの菰樽を見たとき、のし紙を選ぶとき、この背景を少し思い出してもらえれば十分です。

※この記事は20歳以上の方を対象としています。飲酒は適量を守り、妊娠中・授乳期の方や運転前の飲酒を避けてください。

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